9.


Writer 遠夜



 懐から取り出され、意図した項目の開かれた本の文字を、スッと指でなぞる。
 と、同時に注ぎ込まれた錬れた魔力に、媒体たる本が反応したのか、淡色に発光した。

「・・・っ?!」

 途端、ドウッという空気の振動音と、衝撃がシリオンを中心に辺りを襲う。
 同時に、シリオンの脳裏に理解不能な文字とも言えない、暗号じみた記号のようなものが流れた。

(何・・コレ・・・・っ?!)

 戸惑いが、シリオンの胸中を一瞬支配する。
 何故か、それに既視感を覚えて。
 同時に感じている、この恐怖はなんなのだろうとも思って。
 だが、シリオンにそれを詮索する余裕などなかった。
 とめどなく流れ入る情報。
 それは、シリオンの許容量を遥かに超えて、未だに進入してくる。
 限界量を超える情報は苦痛にしかなりえない。

 もう耐えられない。
 意識が、遠のいていく。

 その瞬間、パァンと何かが弾けた。

「な・・何・・・・」

 一瞬で、今までシリオンの体を圧迫していた空気が、完璧に消えた。
 当然、先ほどまで絶え間なく流れていた情報もとまる。

(何か・・ものすごい体ダルイ・・・)

 何かに極限まで魔力を行使したらこんな感じ。と体現するように両腕を床に着く。

「なんだったんだ・・今の・・・・」

 嘆息しつつ、呻くように声に出す。
 しばらくそのまま座り込んでいたが、そろそろ大丈夫だろうと思い、立ち上がろうと視点を上に移した。
 途端、何かが視界に入った。
 何もなかったはずのその場所に、

 彼女は、居た。





「全くどこ行ったのよっ! リオのばかぁぁああああ・・っ!!」

 ザクザクと下草を踏み倒しつつ、オムレットはこの森に来るまで側に居たはずの人物を罵倒した。

「何で居ないのさっ?! おかしいじゃないよっ!! やっと、あの無茶苦茶長い行程をぬけたと思ったら何?! リオが魔法失敗してたら意味ないじゃんっ!!」

 思う存分悪口雑言撒き散らし、その勢いと共に歩行速度も増していく。

「しかも、何故か狙ったかのようにモンスターわんさか出てくるし。どんなけ蹴散らしてもキリなかったしっ・・その上わけわかんないうちに跡形もなく消えちゃうしぃっ?!」

 突然、だんっと足音を立てて、立ち止まる。

「ああもおっ! 本当にどこ行っちゃったのさああぁぁぁっ?!」

 もーどーにでもなれっと、オムレットは上空に向かって喚きちらし、

「―――・・れ?」

 視線が何かをつかみ、一点を注視する。
 オムレットの居る所。そこから数十メートルくらい先に、淡い光が見えた。
 金色の――というより白、いや、むしろ透明な感じの光が、ぼんやりと円柱状にあった。

「何だぁ・・あれ?」

 呆然として、呟いた。
 確かに、さっきまであんなものはなかったはず。
 戦闘中、集中はしていたが、そんな周りの様子に気を配れないほどの余裕の無さじゃなかった。
 いくらなんでも、あんな目立つものにはいやがおうにも気がつくはずだ。

(消えた時・・出来たのかな・・・・?)

 あの唐突な変化を思い出し、胸中で一人ごちる。
 見やった円柱は、不思議なほど安定していて、どこか、何かを惹きつけられるような感覚が生まれて、オムレットは頭を左右に振った。

「行ってみよ」

 有言実行。
 口をついてでた言葉どおり、言ってからすぐに、その円柱の光に向かって走り出した。





 それは、とても幻想的な光景だった。
 円柱状の光に包まれ、ゆっくりと降りてくるそれは、金色に見える長い髪と、明暗に分かれた赤めの瞳をしていた。
 その瞳は何も見ていなく、極端にうつろなイメージを見る者に与えた。
 白いワンピースは何の飾り気も無く、中空に浮いた体に纏わりついている。
 少女と呼べる年に見えるが、その圧倒的な雰囲気に、見た目で判断は出来ないのだろうと思わされる。
 シリオンは、それを目の当たりにして、金縛りにあったように、その場を微動だに出来なかった。

(何で・・こんな・・人がこんな所に・・・・?!)

 混乱気味に、胸中で叫ぶ。

(いや・・本当に人間? 赤い瞳なんて、聞いた事も見た事も・・・・)

 考えている間に、少女は地に足をつける。
 ついで、ゆっくりと光が収まっていった。
 そこで、金髪に見えていたものが、茶色に変わり、虚空を見つめていた瞳に意思が宿る。

「・・・・・・・・・テウム・・」

 開口一番、誰とも知れない名前を呼ぶ。

「・・テウムって、誰」

 反射的に、シリオンは単純な疑問を口にする。
 その声で、初めてシリオンの存在を知ったように、少女は身構え、続けて言った。

「・・っ?! 人間っ!!!」
「え」

 怒りと悲しみの篭もった叫び声に、シリオンは思わず聞き返すばかりだった。



 






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