7.


Writer 遠夜



「つ・・ついた・・・・」

 目の前に見えた高い『塔』に、安堵した声が漏れた。
 その顔に張り付いた表情は、何ともいえない達成感なるものがあったのか、わけの分からない笑みを浮かべている。

「なにやってんだか・・・・ほら、行くよ」
「あ、ち、ちょっと待ってっ!」

 言って、いわゆる魔方陣のような複雑な模様の描かれた床の上にのる。
 それはやたらとでかく、余裕で十数はのれそうないきおいがあった。
 天井は高く、軽く10mくらいはある。
 上方に、一枚だけ装飾としてか、それとも何らかの魔法的要素が組み込まれているのか知らないが、意匠の凝らされたステンドガラスがはめられていた。

「・・・・・なんで門入ってからここまで来るのに、昼飯食べ終わって食後のお茶をちょっとする。くらいの時間がかかるのさぁあ・・・」
「そんな今更どうしようもないこと言ってないで、もう行くよ」
「はぁーい」

 言って、オムレットのたよりない返答を聞きつつ、なれた手付きでシリオンはページを捲った。
 が、

「あ・・――――」
「・・あ?」

 その場から2人が消える瞬間、シリオンは声を漏らす。
 オムレットが聞き返したときには、背景もも森に変わっていて、・・シリオンさえも居なかった。

「・・リオぉぉぉ・・・・?」

 呻きつつ、ついさっきまで側に居た人物を探す。
 周りは昨日訪れたばかりの森。
 自分の周囲を見回してみるが、全く変わりない様子――

「どこ行った―――」

 言いかけて、途中で言葉を止めざるを得なかった。




 一方、オムレットの探していたシリオンも、森の中に居た。

「何だ・・さっきの違和感は・・・・」

 マトディの結界の中で、『本』のページを開いた瞬間、今までにない、何か、異様な感を受けた。
 まるで、何かにこの島に侵入するのを阻まれているような・・
 おかげで、完璧に支配できなかった魔力が暴走し、オムレットを別の場所にすっ飛ばしてしまった。
 下手をしたら、まだマトディにいるのかもしれない。
 もし飛んできているのだとしても、すくなくとも自分から1、2kmは離れているだろうと見当をつけた。

「・・海に落ちてなきゃ良いけど・・・・」

 かなりやばいだろう不吉な発言を一人ごち、そのままこの場にようはないとでも言いたげな様子で歩き出した。

(・・まぁ、オムだし。大丈夫だとは思うけど)

 落ちてても。と付け加えるように呟いて、何となく周りに目をやる。
 昨日着たときと全く変わらない、蒸し暑い気候に、緑色しか見えないといっても過言ではない風景。
 頭上を見上げても、空さえまともに見れなくて、葉の間から少しのぞかれる程度。
 といっても、少しも暗くない。
 暗くはないが、それがどうというほど珍しいことではないので、無意識的にシリオンは無視した。
 説明してみると、いわゆる『光草』という、森などには良く生えている、割とポピュラーなものがあったからなのだが。

(・・そういえば、あのときのモンスター以外、一匹も動物を見かけてないな)

 そうシリオンは考えて、その事実がおかしいことに気づく。

(何故、動物の進化、もしくは退化・欠陥品とも言われているモンスターが居て、原型である動物は―――)

 いないのだろう?疑問に思ったとたん、いきなり、開けた視界と共に差し込んだ強烈な日の光に当惑して、思考を止める。

「ここは・・・・」

 眼前に、遺跡のような建物の残骸が広がっていた。




 ―――南西方向1,5km

 ガキィンッ
 振り向いた先に、居るとは思わなかったモノが居て、驚いて思わず反射的に引き抜いた得物で取って返していた。
 いつのまにか、無数の何かに、オムレットは囲まれていて。
 何かを考える暇などなく、襲い掛かってくるソレに向かって、

 「はああ・・っ!」

 気合を入れて、得物を振り落とす。


 







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