8. Writer 遠夜
その動作がくすぐったかったのか、シャラは嬉しそうにわらった。 「ねーシャラー」 「何?」 いつのまにか2人(1人と1匹?)の近くにきていたオムレットは、とりあえずシャラに話しかけた。 ・・・少々、邪魔された感を受けたシャラの気を悪くしたみたいだったが、とりあえず気にせず言葉を続ける。 「あのさ、大丈夫なの?」 「大丈夫だよ。怪我もちゃんと治せたし」 オムレットはシャラの安否の方を聞いたつもりだったのだが、求緑獣に気のいっていたシャラには別の意味に聞こえたらしく、次の言葉に少しつまってしまう。 「うん・・・・まぁいっか」 「何が?」 自分から見ても大丈夫そうだったので、オムレットは自己完結させてしまう。 シャラが何か言いたそうだが、それ以上何も言おうとしないオムレットを見て、沈黙せざるをえなかった。 そして、その間を補うかのようにケイス・ケイが口を開いた。 「シャラ、その求緑獣どうするつもり?」 「どうするって・・どうする?」 シャラは求緑獣に向かって言う――― と、聞かれたほうが唐突に素早く動き、音もなく、シャラが吹っ飛んだ。 「シャラっ?!」 「ちょっと待てオムっ!先に周りを見ろ!!」 叫んで、軽く2・3mほど離れたシャラに近寄ろうとした、オムレットをシリオンが制止する。 「何・・・っ」 「何よ」といいかけたオムレットは、目の前に現れたモノを見て絶句する。 それは、ついさっき戦ったモノと同じ泥人形が、地面から生えるように出てくるところで。 瞬間的に身体が反応して後ろに飛び退る。 「な・・なんか・・・・これだけいると、爽快だね・・・・・・っ」 いったいどこからこれだけの数が集まったのか。 数十はいるだろう泥人形の数々。 とりあえず今見回しただけでもコレだけの数があるのだ。 ・・・今まさに出ようとしているのも数にいれたら・・・・・・ 「あーっ、もう、うっとーしいしっ!!」 大木(シャラお気に入り)の側まで飛び退っていたオムレットは、そう言って腰の剣を抜き放つ。 ついでに、側に居た人形を居合いで切り捨て、完成しかけていた包囲網の突破口を作る。 それから、その輪の外へ出ると、くるっと身体を回して、その勢いのまま、背後の2対を横なぎに切り捨てた。 その間、少し周りを見ると、遠くでシャラとシリオンが、わりと近くにケイス・ケイが、戦っていた。 気持ち押されているシャラたちの助けに行きたいとは思ったが、それを遮るように現れる人形達に思わず舌打ちする。 いくら下級とはいえ、まがりなりにも不死族系。 大本を倒さないことには無限に出てくるというしぶとさがある。 「キリが・・・・ないっ!」 振り下ろした剣を構えなおしつつ、ケイス・ケイははき捨てるように言った。 数体を切り捨てた大剣は、泥に塗れていはいてもいまだに鈍く光を放っている。 その大剣を翻して、悪態をつきつつも次々と人形を切り捨てる様は・・・・なぜか、少し怖いものがあった。 それはなぜか。 その頑強には見えないが、力あるその手に握られた大剣、それをもって泥人形を切り倒すときの、彼女の顔・・・ ――――その表情が少々笑んでいたせいなのかもしれない 「・・・・・くっ」 小さく呻いて、シリオンは上体をそらす。 その目の前を、泥人形の飛ばしてきた、正体不明の粘液が通り過ぎる。 体勢を立て直し、そのすきに突進してきた人形を、近くでシャラを護っていた求緑獣がその手で叩き伏せた。 「あ・・ありがと」 そういったシリオンの言葉の意味を、理解したのかしていないのか、そのまま無言で向かってくる泥人形を叩きのめしていく。 まぁ、どちらにしろ求緑獣は人語を話せないのだが。 その様子を少し複雑な心境で見つつ、手に持った本を開ける。 と、僅かに金の瞳を紙面にさまよわせて、目当ての文字を見つけると指をはしらせる。 「疾風」 その言葉に応じる様に、風の項目が淡く緑色に光る。 同時に、シリオンの前方に、直径約2,3mの円を描いて圧縮された風が刃のように走り抜けた。 それを横目で見つつ、次の魔法を使おうとページを捲る。 「シリオンっ!」 少し切羽詰ったような声が背後から聞こえて、そんな暇があるはずもないのに、思わずその声の主へと振り返った。 「何?」 「あれ!あれ見てっ!!」 シャラが指差す先には、植物であるはずの木が、動き出していた。 |