2.


Writer 遠夜





「ぅはー・・・・もぉお腹いっぱいー・・」

 言ったオムレットの前には、明らかに人間の許容量を超えた量の皿が、山のように積み上げられていた。

「そりゃぁ・・これだけ食べておいて、お腹すいたなんて言ったら呆れる通り越して怒るわよ・・・」

 少々ため息混じりに、シャラは言った。

「全く。・・あんたのせいで財政難になってるって言われても文句は言えんな」
「う・・・・そんなことっ・・」

 反論しようとして、流石に今回は無理があると思ったのか、途中で言葉を切って、オムレットは沈黙する。
 説明が遅れたが、今3人がいるのは、3人が主に仕事始末屋として仕事を受ける要所、仕事斡旋所兼レストラン兼安宿の、自由都市トリニティで名高い『時忘れの宿』、通称クロノだった。
 今現在、時間的にはまだ昼には早く、朝には遅いせいか、いつもほどの賑わいはない。
 常連である3人は、少し起きるのが遅かったので、朝とも昼ともとれない、この時間帯で食事をとっていた。

「うーん・・・ねーショコラー。何かいい仕事ないー?」

 ふつふつと罪悪感がわいてきたらしく、オムレットは、クロノの宿屋の看板娘であるショコラに話しかけた。
 ショコラは、ここらでは良く見る取り合わせの容姿――茶に近い金髪で、茶色の瞳――をしている。
 看板娘なだけあって、平均よりも美人な方だ。
 ショコラは、3人と同年代なので、よく話をしたりして、それなりに気があったりしていた。
 それに、彼女はクロノの主人よりもよく働いていて、仕事の斡旋なども全て彼女がやっていた。
 ・・・クロノの生計は、彼女が全てたてているといっても過言ではないだろう。

「あるよ」

 オムレットの言葉に、いともあっさりとショコラは答えた。

「え・・・っ?うそ、どんなのどんなの?」
「うそなんかついてどーすんの・・・。新規のお客さんだから過去の記録がなくて不安が残るところだけど、それなりに評判はいい所みたいだから。・・まぁ、あんたたちなら大丈夫よ」

 聞き返したオムレットに、ショコラは一枚の紙を手渡しつつ、そう言った。
 受け取ったオムレットは、2人にもわかるようにテーブルに紙を広げ、読み上げた。

『急募!!モンスター退治。
 興味本位で買い取ったいわく付きの屋敷なのですが、最近になって、
 屋敷内はもちろん、その周辺にもモンスターが出現するようになって大変困っています。
 近辺の敷地を使い、住宅街にでも開拓しようとも思っていたのですが、それも叶わなくなりました。
 報酬として、その屋敷を無料で貸し出しいたしますので、モンスター退治を依頼させていただきました次第です。
                                               L商会 会長代理 ブロズ=ゲイト』

「すっごいっ!家じゃん!しかも屋敷って・・・!!」
「うわー・・・。すごいっ!タダだよタダっ!!」

 声を上げる2人を見つつ、シリオンはもう一度紙に目を通す。

「何階建てかな?」
「部屋とかいくつあるんだろー」

 夢見るように、際限なく2人は盛り上がる。
 そりゃあ念願のマイホーム。
 家さえあれば、もう二度と路頭に迷う事だって、野宿を案じる心配もなくなる。

「ウマイ話には裏がある。って言うけど・・・いわく付き・・ねぇ・・・・?」

 シリオンの言葉は、ますますエスカレートしていく2人の耳には届かなかった。







 






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