14.


Writer 遠夜





「つ…疲れた……」
 現在地、迷宮地下3階。
 個々まで来るのに、さすが迷宮の名を冠するだけあって単純なようで複雑な、多重になっている迷路を進んでいた。
 一応地図なるものはあるのだがそれそのものが迷路になっているし、とりあえずそれを解いてもここにくる事態となった原因の依頼が、迷宮内のどこにいるか分からない子供の捜索・救出ときた。
 …おかげで行き止まりになっている場所も探さなくてはならない。
 これが単連結の迷路ならば、いわゆる『左手の法則』を使って進めば全てを回りきることも可能だったのだが…
 「ぉ、やっと次の階だー」
 後2つ。
 計5階のこの迷宮は、本当は250階まであるらしいのだがあまり詳しいことは知られていない。
 地下5階以降は、かなり強固な封印が施されていて普通の人間は通れない。
 理由は、単に迷宮に潜むといわれるモンスターの存在だ。
 上手く地下深くに封印されているのか、おかげで今までモンスターらしきモノに出くわしていない。
「ん?」
 コツン、と足先にあたる何かがあって、身を屈めてソレを拾い上げる。
「……水晶…?」
 三角錐の形をした水晶。
 手の上で転がしてみて、顔に近づけてみると何か文字とも記号とも付かないものがビッシリと刻み込まれているのが分かった。
「何でこんなとこに―――」
「返せッ!!」
 言いかけた言葉を遮って聞こえた、ちょっと高めの声に驚いて顔を向ける。
 と、何故か鋭利な刃が飛んできた。
「うわあぇえっ?!」
 寸でのところでギリギリ避ける。
 ちっ、という舌打ちが聞こえてきた気がするが、かまわず飛んでくる刃に気がいく。
「ちょ……っ、ちょっと待ってよっ?!」
「問答無用!」
 いや聞けよっ?!と思わずツッコム暇もなく、その少年は今度はこっちに向かって真っ直ぐ突進してきた。
 その手に持った2つの短剣を見て取って、流石にヤバイと素早く腰から剣を引き抜く。
 途端、キィンと高い金属音がして、刃が交差する。
 短剣に対し、それより倍近くある長さのオムレットの剣は懐に入られると厄介だ。
 そうならないように、上手く距離をとって少年をあしらう。
「これは、ついさっき拾ったんだけどッ!」
「嘘をつくなッ! それを使って、地下の封印を解こうとしたんだろう!!」
「えええぇぇっ?」
 流石に驚いて、少年の短剣を弾いて距離をとる。
「ちょっとまってよ! これで封印を解くって……何で君、そんなこと知ってるのさ?」
 ギク、と少年の体が僅か揺れたのが見えた。
「そんなこと盗人に関係ないだろう!!」

 言い切った。
 言い切ったな。

 ガギンッ
 
(え……?)

 瞬間、少年の持っていた短剣2つが鈍い音を発してその手を離れ、へし折れた。
「あたしはね、何よりも勘違いで盗人扱いされるのが嫌いなのよ。 ……分かった、リグ君?」
 少年の背後でそう呟くオムレットには、殺気が漂っている。
 リグ少年は、その言葉を聴きつつ、意識を失った。



「ありがとうございます。うちのリグを連れ戻してくださって……これがお礼ですわ」
 そういって渡された、金貨の入った皮袋を受け取る。
 リグを気絶させたまま依頼主の元へ連れて帰ったら、事の真相を教えられた。
 何でも、昔から無駄に活発だったらしいリグは何を思ったのか、突然代々管理下にあった迷宮の奥に潜むという、モンスターを退治すると言い出したらしい。
 当然、親である依頼主はダメだと言い聞かしたそうだが、懲りずに親の目を盗んで、水晶でできた封印のカギを保管庫から持ち出してしまった。
 流石に困って、クロノに依頼したのだと言う。
「ありがとう。リグ君にはしっかり言い聞かせておいてくださいねー」
「もちろんですわ。そろそろ暗くなるので、お気をつけてお帰り下さいね」
「……はい」
 ぱたんとドアを閉めて、踵を返して歩き出す。
「気をつけて、か」
 そんなことを言われるのは何年ぶりだろうか………
 歩きながら、先ほど貰った皮袋を腰のバッグに詰め込んだ。
 中級住宅街は、オムレット達のいつもいる雑然としたものではなく、整然とした通路が見通しよく通っていた。
「迷宮、か。相当古いものだったし、あれも古代文明時代の産物かね……」
 独り言を言っていても何か寂しいモノがある。
 ふと、あの2人の顔が浮かんできて、もう向こうは終わったかなと考える。
 つらつらとどうでもいい事を考えていると、あたりの景色が雑然とした通路に変わっていた。
 視界に『sderf』の文字が入る。
「……。そーだ。お土産に買って帰ろうっと」
 言って、オムレットは待ってろあたしのイチゴチョコーっ!と足早に店内に消えていった。








 






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