2. Writer 神実
「ホラ、来た。どうすんのよ」 「最近のヤツは手が早いって言うけど本当なんだな」 「何か微妙に違うコト言ってる場合かっ?!やっちゃっていいね?!」 「そこで駄目っつったらどうするんだろな・・・・ま、殺さない程度にね」 と、言うや否や、シリオンはオムレットの背中を思いっ切り、モンスター達の方へと突き飛ばした。 「わっ・・・わざわざこんな事、せんでいいっ!!」 怒鳴りながら、よろけた体勢を立て直したオムレットは素早く腰に佩いた剣を抜きはなった。 襲いかかる獣たちを眼で確認すると、手近にいた順から斬りかかった。的確に急所に一撃を入れるポイント攻撃に、数多いたモンスター達も次第に数を減らし始めた。 「はぁっ・・・・あと・・・・8頭・・・・・・っ」 ダルくなった腕を振り上げながら、横目でチラリとシリオンの方を見ると、彼女は、 本を読んでいた。 「てっ・・・・手伝えよぉぉぉぉ!!」 思わず転びそうになったオムレットの叫び声に、シリオンは顔も上げずに答えた。 「一人でやれたんだからイイでしょ。頑張ってくれ」 「アホかーっ!!」 「・・・・・しょうがないなあ・・・・・んじゃ、一発だけやってやるから、ちょっと周りに気を付けろよ」 そう言うと、シリオンはローブの内側から、一冊の本を取りだし、首からさげていた古びた眼鏡をかけ、ページをめくり出した。 「えーと・・・・・どの魔法がいい?」 「そだなー。カッコ良く炎系でっ!!」 「じゃ、地味で暗い水系で」 「訊いた意味無いじゃん?!」 ふざけ合いながらもオムレットの剣は確実に一頭一頭を仕留めていた。 一方シリオンは、本のページをめくり、『水の項目』を開くと、ぎっしりと並んだ古代文字の一節を、指でスッと撫でていった。 指先でスッと前方を指し、硬めのアルトでぼそりと呟く。 「・・・・“密霧”」 すると、撫でていった文章が、青白く光り輝きだし、その輝きと共に辺りに霧が漂い始めた。 「あっ・・・・・」 その霧に気付いたオムレットは、攻撃を止めて身軽にシリオンの傍まで駆け戻った。 「霧の魔法?」 「てか・・・・まあそうかな」 辺りが急に冷えはじめ、オムレットはむき出しの二の腕をさすった。 重く白い霧が立ちこめ、一歩先も見えなくなったかと思うと、一瞬でその冷気は消え去った。 景色はさっきと同じ、暑い森に戻った。その中に地面に数頭のモンスター達が倒れ伏していた。 倒れたモンスター達にオムレットが近寄り、その内の一体の背に触れた。 「生きてる・・・・けど、何か冷たくなってる」 「こーゆう熱帯に生きてる動物ってのは寒さに対する耐性がないから、ちょっと周りを低温にしてやりゃあ動けなくなるんだよ」 「ふーん」 「ちなみに動けなくなるのは、何故かと言うと、環境の急激な温度変化による低温状況に体温が対応できずに血管内の血流が不完全流動を起こし、内蔵への負担や神経伝達の・・・・・・」 「うるっさあい!!いーよ、もうそんなのはっ!!」 両耳を手で塞いで叫んだオムレットに、シリオンはケラケラと笑った。 「てーかっ!そんなの解ってんなら最初っからやりゃあいいじゃんっ!」 景気良くシリオンに向けて人差し指を突き立てるオムレットに、その友人はまだ笑いをおさめずに言った。 「オムに任せてた方が楽だったもんな。それにお前、ちゃんと獣達殺さなかったし?」 クスクスと笑いながら言われた言葉に、オムレットはわずかに顔を赤くした。 周囲に倒れるモンスター達の全てが、急所をひっぱたかれて気絶しているだけだった。一頭も死んでいない。 不機嫌そうな顔のまま、オムレットは元来た道を気にし始めた。 「ねえ、いつ帰んの?お腹空いたー」 その言葉に、シリオンは明らかにげんなりした。 「またそれかよ・・・・もう、お前の腹減ったーは聞き飽きたっつの」 「だってー・・・・まだ帰れないの?」 「魔法で帰ることは出来るけど・・・・・めんどいんだよな」 かけっぱなしだった眼鏡を、パチンと音をたてて折り畳み首からぶら下げたシリオンに、オムレットは不満そうに言った。 「今回はこれでいーんじゃないのぉ?ちょっとくらい仕事遅れてもさー、あんたならどうせ怒られないって」 |