19. Writer 遠夜
なんなんだ。 先ほどから、『向こう側』がやたらと五月蠅い。 『彼』は、そう煩わしげに悪態をつきながら、そこにあらわれた。 何があった?シャラ――― ザアアァァァァァッ 木々が、激しくざわめいた。 風もないのに。 続いて、思わず耳を塞いでしまいたくなるような、妙に甲高いモノを含んだ爆発音。 そこに居た2人と1匹を確実に巻き込むように、膨大な質量のある空気の塊が、彼女たちを殴りつけるように通り過ぎる。 「・・・・っ?!」 「な・・によ今度はっ?!」 即座にしゃがみこんだ2人は、小さな悲鳴を上げる。 その直後には、肺の中の全ての酸素を奪われたように、苦しそうに息を詰まらせる。 同時に、何かに吸い込まれそうな錯覚を起こし、言い知れぬ恐怖感を僅かながらも覚える自分に驚く。 その意味を考える暇も与えられないほど強烈な爆風は、2人には数十秒にも思えたが、恐らく実際には数秒の間続いただけなのだろう。 そしてそれは、ふとした瞬間に消え去った。 2人は、のろのろとその伏せていた場から起き上がった。 「・・・・やっぱ、コレって、シャラ・・・?・・って、待ってっ!」 呻いたオムレットの抱いていたキツネが腕から逃れ、その場から走り去っていく。 恐らく、先ほどの爆風が発生した原因である場所へと向かっているのだろうと、見当はついた。 「行こう!リオ――――・・?」 ダルそうに木に寄りかかっているシリオンを見つけ、オムレットは思わず語尾を上げた。 「・・・・なんでお前はそんなに元気なんだ・・」 「悪かったわねっ!」 「誰も悪いとは言ってない」 「ああもうっ!・・んじゃ、先行くからね?!」 「・・行けたらな」 「迷うなよ――っ!!」 シリオンの言葉を聞いたのか聞いてないのか、という時点でオムレットはキツネを追いかけ走り始めた。 ついでに、急に心配になった友人の方向感覚に、一応付け足すように、去り際に言葉を残す。 シリオンは、余計なお世話だと言いたげに顔をしかめたが、ついで他の意味でその表情をすることになる。 「おかしい・・な・・・」 オムレットの去った方向をちらと見やって、シリオンは一人ごちる。 珍しく、本を出そうという気力も体力もない。 「これほど・・精神的ダメージが大きすぎる・・・・なのに」 苦しげに、独り言を続ける。 無理に言葉を出さなくてもいいはずなのに、自然とそれは口から零れ落ちる。 それに伴い、シリオンの、中性的に創られたさまざまな意味で誰もが一度は見惚れてしまう、その顔が苦々しく彩られた。 「何で・・・・アイツは変わりないんだ・・・・・・?」 「な・・なんか酷いなー・・・・」 オムレットは、走りつつも、独り言をもらした。 『幻の森』と言うくらいだ。 草木、植物はそれこそ掃いて捨てるほど、ある。 が、それらのほとんどが―――― 「なんで・・こんなに元気ないんだ・・・・?」 まるで生気を何かに奪われたかのように、萎んだり、酷いものになると枯れていた。 それらは、足を進めるほどに酷くなっていく。 最終的に、シャラと初めて出会った場所についた。 「・・シャラ・・・・?」 とりあえず、名前を読んでみる。 少し返事を期待してみたが、ない。 「・・にしても酷いな・・・これは・・・・」 言って、辺りを見回す。 荒野と言っても何の差支えもないほど、無機質に成り代わった一帯。 昨日と全く変わらない、遺跡らしきものの存在はあったが、それをカラフルに彩っていたはずの緑は何も残っていやしなかった。 それらを注視しつつ、遺跡の中へと、オムレットは足を踏み入れた。 しばらく中を色々と見物しながら、どんどん奥へと入り込んでいく。と、 「うあー・・・・何、これぇぇぇ・・?」 オムレットは呻き、その遺跡の瓦礫の奥からは、少女が現れた。 (さっきの爆風は、多分精神攻撃の一種のはず。・・というより、周りの『力』を奪う魔法だ。その奪った『力』でさっきの爆発が起こったんだろう。・・にしても、オリジナルでこれだけの威力を出せる魔法なんて・・・・攻守共によっぽど長けていないと不可能なはず。マトディですら、そんなヤツ――――) シリオンは、そこまで思考をめぐらせて、止めた。 「・・とりあえず最有力候補としては、シャラか・・・・・」 何はともあれ、先に行ってしまったオムレットに合流しなくては。 気だるさを訴える身体に鞭打って、無理に動かせ歩みを進める。 正直言って、通常ならこんな状態では、一人で立っているのがやっとだろう。 だが、何となく、勘とでも言うべきものが、ココでじっとしているわけにはいかないと言っている気がするのだ。 本来なら、無理に動かず、じっとして本でも読んでいるところだろう。 「ああもう・・次から次へと・・・・」 憎々しげに、シリオンは言い捨てた。 今日は一日だけで、2回目かなー。 こんなグロイの見たの。 「今日は厄日だっ!」と、心中だけで叫んで、出来るだけ足元にあるソレを見ないように、目先に現れた少女を凝視した。 吐き気を催す臭気も、足元にあるグロイ物体も、耐え難いものがあるのだが、目前に現れた少女の姿に見覚えがあったせいで、その場から即刻撤退することが出来なくなってしまった。 と同時に、さっさと少女を連れ出して、こんなところから出て行きたいと思う。 何故か、その原因を作ったのは誰か?という疑問を自動的に排除して。 「もしかして、シャラ――――?」 「愚かな人間。使えもしない『力』を無理に利用しようとするからだ。・・まぁ、まさかアレがこんな所にいるとは思わなかったんだろうな」 (―――――――はい・・・・?) 少女は、恐らく足元に向かって言い捨てたのだろう。 そう。まさしく、少女は言い捨てたのだ。 その視線が下を向いて、その骸を馬鹿にしたような色が瞳に宿っている。そのまま、 「――それとも、捨て身だったか?・・・・くだらない。―――あんたは、何をしに来た?・・と、言うよりも、何者だ」 不意に、少女は視点をオムレットに変え、言い放った。 |