17.


Writer 遠夜



「うーん・・く、暗い図書館って、なかなかにいやぁーな雰囲気出てて・・・・や、よーするに、なんだかめちゃくちゃ怖いからこんなところ出よーよていう気分なんだけど。・・ってーかまだ見つからないのシリオンーーっっ!!」
「もう少しかかる・・ってか黙ってろ」
「あうううう・・」

 先ほどの一騒動――で、済まされるほど単純でも、まず普通に一般的な生活していたら起こるようなものでもない事件――を終えて(一応)、とりあえず一番の安全策である、移動魔法でマトディを脱出・図書館内の重要参考書物室への進入までを成功させていた。
 当たり前といえばそれで終わってしまうが、とっくに図書館は機能しておらず、明かり一つない暗さを館内は保っていた。
 いや、一応シリオンが魔法で出した、ぼんやりとした白色の明かりがあることはあるのだが。
 ・・かなり、心細い。
 しかも、それ自体シリオンの探している手元にしかないので、尚のことだ。

(もぉぉぉぉ・・っ!ぜったいっ!!夜の図書館なんてー恐ろしく暗くて狭くてどうしようもないところなんかに忍び込まないもんねっ!!)

 そう何度もあっては人としてどうかと思うが。

「あ。あった・・」
「見つかった?!」

 安堵に近い声音で言ったシリオンに、違う意味で安心した声をあげるオムレット。
 ・・・・安堵?

「やー・・もしかしたらないかもって思ってたけど。探してみるもんだねぇ・・ラッキー」
「ラッキーてあんた・・んな存在不確かなもの探してたんかいっ?!」
「ま、結果オーライ。っていう故人の名言もあるわけだし」
「い・・いわゆる結果よければ全てよし。みたいな」
「そう」
「あああああああ・・っ!!なんかそれって今までの経緯を振り返ってみても行き当たりばったりな行動も全部緩和されちゃうようなむちゃくちゃなご都合主義的名言(?)に聞こえるんですけどどうなんですかそこんとこは?!・・そーいや君の肩書きてか職業ってなに」

 行動全てでまくしたてるように言い放った直後、はたと何かに気づいたかのように止まって、疑問符を浮かべた顔で訊いた。

「・・・・唐突だな・・魔法使い兼歴史学者」
「答えてるあんたもどーよ」
「・・お前が訊いたんだろうがっ!!」
「わー怒ったよ魔法使い兼歴史学者のシリオンさんがっ」
「・・・・もしかしてソレが言いたかっただけとか?」
「うんそう。魔法使い兼歴史学者のシリオンさん、良く分かったねー♪」
「・・・・・・そういえば妙に饒舌だと思えば・・」

 言って、オムレットの震える手で、引きちぎらんと握り締められている、シリオン自身のローブを視界に入れた。

「だってだってだってさぁあっ?!・・・・あ」
「今度は何・・」

 呆れたようなシリオンの台詞を聞きつつ、オムレットは背負っていたショルダーバッグをごそごそと探る。
 そして、探り当てられた、小さな丸い球を取り出した。

「なにソレ」
「んっとね・・こーすんのっ!」

 ぱんっと、小さな音を立ててソレは床の上で破裂した。
 同時に、昼の明るさ程とは言えないが、適度な明るさに部屋の照度が上がった。

「へぇ・・・ソレも機械?」
「うーん・・むしろ化学。カプセルの中に入った照粒子が、空気中に分散して、一帯を明るくしてくれる便利な道具。ちょぉっとばかしコストが掛かるから、ココ等(第三大陸)じゃぁあんまし普及されてないのが残念なトコだけど。ちなみにコレは自作だったりするんだよー♪」
「ふぅん・・」

 嬉しそうに説明するオムレットに、興味なさそうにシリオンは相槌を打った。
 ついでに、明るくなったおかげで、これ以上力を消耗するのも意味がなくなった手元のそれを打ち消し、見つけてからずっと手に持っていた本の表紙を開けた。
 そんなシリオンを見たのと、辺りが明るくなったので安心したせいか、オムレットは勝手に周りの蔵書を漁り始めた。
 そんな彼女を視界の端に捉えつつ、シリオンは構わず本のページを捲る。

 その本は、相当の年季が入っていて、かといって、そのわりには不思議なほど損傷がない。
 装丁は凝った意匠もなくシンプルで、皮に似ているが違うだろう生地を表紙に使用してある。
 一枚一枚の紙に記された文字は、意味不明な柄と言っても差し支えないだろう。
 ただの肩書きじゃなく、あのマトディで学んだ、本物の歴史学者であるシリオン=ジュレックでさえ、解読不能だったのだから。

 ぱたん。
 と、ページを捲っていた手を止め、閉じる。
 なんとなく表紙を眺めてみるが、何も表記されていない。
 裏を向けても、何も書かれていなかった。
 表返して、表紙を撫でるように、自らの手のひらを置いた。と、

『我は黙示録。汝、知識求めやめぬ者か』

「?!」

 思わず、バッと本の表紙から手のひらを引く。
 唐突に頭に響いた、声とも言えない声は、彼女を動揺させるだけの意外性と、迫力、厳格さを持っていた。

「・・・?どうしたの、リオ?」

 当然と言えば当然、いきなり瞬間的に動いたシリオンに、不審気にオムレットが声をかけた。

「オムは・・聞こえなかったのか・・・・?」
「へ?・・・何が」
「・・いや・・・・」

(という事は、聞こえたのは私だけか・・・)

 胸中で、とりあえずその場は完結させて、手に持っている本をしまい込んで、シリオンは立ち上がる。

「むぅ・・・まいっか。んじゃ、次は幻の森?」
「そうだなー・・ああ、そういえばあんた、何見てたのさ?」
「んー、これ?珍しいなーと思ってさー」

 言って、オムレットは、楽しげに持っていた本をシリオンに見せた。

「また機械・・・」
「なによぅ、活字中毒者に言われたかないわよっ」

 呆れた声を出されたのに少し腹が立って、活字中毒者にそう切り返す。

(ほんっと珍し・・まっさか、こんなトコでお目に掛かれるなんてね)

 オムレットは、懐かしむようにその本を眺め、持っていくのもなんなので、律儀にも元の位置に戻した。

「あー・・何か疲れたな・・・・」
「つ・・疲れたとか・・・・」

 今からが本番だろうっ!と、オムレットが突っ込もうと口を開いた瞬間、どかどかと派手に音を立てて、数人が現れた。
 彼らは、口々に「見つけたぞ!」やら、「捕まえろ!」だの言っていた。

 オムレットは、台詞言えなかったせいか、少々不機嫌そうに彼らに向き直りつつ、理由は違えど同じく不機嫌そうなシリオンに言った。

「ね、一つ言っていい?」
「何」

 シリオンから許しを得て、オムレットは一息で言った。

「人様の台詞を遮ってでしゃばるな!!」
「・・・・・」


 







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