13. Writer 遠夜
カチャリ・・ 金属製のカギを外された音がして、見るからに使い古された――よく言えば年季の入った――木製の扉が開いた。 友人と別れたのは数十分前。 なんだかんだ言って、気が付いたら暗くなりかけていたので、2人はそのまま済し崩しにそれぞれの帰途に着いていた。 今頃、シリオンは偽造に近いような――別に犯罪とまでは言わないが(言うかもしれない)――報告書を作成して、学術院の方に提出している頃だろう。 そのことはかなり気にかかったが、いくらなんでもそれは一緒に出来ることでもない。 それはシリオンの仕事だし、まず考えるまでもなく、オムレットには向いていない作業だった。 それに、提出した今日、即効大事になるような事態は起こらないだろうと、オムレットは高をくくっていた。 朝、出てきたときと全く変わりない部屋を何となく見回してみる。 そして、日課とも言える、室内をごちゃつかせている一番の原因――無数の細長いコードを、その四角い銀色の光沢を放つ物体から伸ばし、部屋の4分の3ほどを埋めている――、いわゆる、『機械』の起動を始める。 「・・・・あれ?」 唐突に、違和感を感じた。 (――――そういえば、扉閉めたっけ・・?) のんびりと、背後に感じた、違和感の正体を適当に当てはめて、確認のため後ろを向こうと背後に意識を集中したとき、あからさまな嫌な気配を感じた。 (っ?!) 思考が、停止する。 背後に、自分以外の誰かがいる――― そう悟った途端、ヒュッという音と、条件反射的に体が動いたのはほとんど同時だった。 (・・っ・・なんでっっ?!) 自問する。 とはいえ、そんな事をしても答えが出るわけもなく。 銀色の残像は、オムレットに見せ付けるような、鋭利な存在感を持っている。 その攻撃を避けたと同時に身をひねって、それを持つ相手を一目でも見ようと少し体勢を崩す。 「んなっ?!」 オムレットの深い青の瞳に映し出された、その姿は。 今にも、その鋭利な刃をもって、オムレットに一撃を加えようと、得物を振りかざす、その姿は。 (私ぃぃぃぃーーっ??!) オムレット、そのものだった。 振り上げられた剣は、目に付くような飾りもないシンプルなもの。 年季の入った、お気に入りの長年慣れ親しんだジャケット。 数ヶ月前に切ったまま、めんどうの一言でほっといてる髪の長さも。 身長も。 顔の形も。 全て。 ソレを見て、オムレットは当然のように混乱する。 が、当然、相手はそんなオムレットに容赦はない。 当たり前のように、攻撃を加え続ける。 (いやちょっと待ってよ今あたしのいるこの部屋ってホントにただ何の変哲もないいわゆるマイホームよね?そうだよねでもそれだったらなおさらおかしいってだってなんだってこんなあたしそっくしのってーかあたし?がいるのさここはヴァーチャリアリティルームじゃないしましてやアイツじゃぁないよねだってアレがないしていうかまさか実は鏡でしたーとかいうオチだったり?にしてもあたし今剣なんか振り上げてないしってーかそんなことする意味がないというかなんというかそれ以前にあたしの部屋には鏡なんてない!!) 最終的にそれはどうかと思わせるような結論付けを胸中で済まし、オムレットはやっとこさ混乱からたち直った。 ・・その混乱の最中でも、何とか相手の攻撃を避けているところが、仕事人だ。 そして一声。 「人のマネすなぁぁぁぁっ!!!」 ・・・・・・・そういう問題ではない。 とはいえ、ともかく彼女そっくりの人物は、無情にも、無表情に、変わらずオムレットに攻撃を繰り返す。 「このやろ・・・っ!!」 ガキィンという音と共に、似非オムレットの剣を弾いた。 いつの間にか抜いた、剣を使って、オムレットは応戦を始める。 「一体、何の用さ?!・・人の家訪ねるにはちょっと遅い時刻なんだけどっ?!」 言って、相手の顔を見る。 が、何の反応もないのに少し嫌になる。 自分の顔が、目の前にある。 それは、オムレットに既視感を覚えさせた。 と、同時に、無表情なその顔は、奇妙な違和感があった。 (何か・・調子狂う・・・・) 一瞬、それが隙になったのか、相手が懐から数個の球を取り出した。 いずれも、例外なく小さい火花を散らしている。 「えええっ??!!」 明らかに、爆弾だ。 気づいたときには、遅かった。 ドォンッという爆発音。 ちょっと近所迷惑になるかな、程度だったが、オムレットにとって、それは致命傷だった。 「ああああああああああああああああーーっ!!!!」 悲痛な叫びが辺りに響く。 (人の・・・・人の苦労の結晶を・・っっ!!!) もはや、声にならないほど金属片となった『機械』の成れの果てを見つめつつ、胸中で叫ぶ。 その間も、相手の目的不明な、無言の行為は続いている。 それはもう、単調な作業だとでも言うがごとく。 「やめんかあぁぁぁ!!」 叫んで、オムレットはあっさりと相手をベッド脇の壁に叩き付ける。 そして、相手が少し動きを止めている間に、オムレットは、機械の核である小さな四角いカードを回収し、なにやら色々ごちゃごちゃと入っているリュックを取り、その身に付ける。 (しゃーない。・・もったいないけど証拠消して、逃げるか・・・・) そう胸中で一人ごちて、オムレットが窓から身を投じるのと、先ほどのものとは比べ物にならないほどの爆発音が辺りに響いたのは、ほぼ同時だった。 |